
ネルドリップが教えてくれた、澄んだ珈琲と向き合うということ
珈琲は、味だけで完結しない。
抽出の所作、道具との距離、そして向き合う姿勢。
ネルドリップは、それらすべてを静かに教えてくれる。
平田隆文先生と、ネルドリップの思想
平田隆文先生は、日本で初めて「コーヒーマイスター」の称号を得た方であり、
ネルドリップの魅力を、技術ではなく思想として語ってくださいました。
ネルドリップは18世紀、フランスで生まれた抽出法。
それが日本に根付き、独自の進化を遂げた背景には、
澄んだものを尊ぶ、日本人の感性があったといいます。
透過法という、日本人の味覚
ネルドリップは「透過法」に分類される抽出方法です。
お湯が粉を通り抜け、フィルターによって澄んだ液体だけが抽出される。
微粉や油分を抑え、雑味のない味わいを引き出す。
京文化の影響を受けた日本人が、この方法を好んだのは必然だったのかもしれません。
濃さよりも、透明感。
主張よりも、余韻。
ネルという素材と、手入れの意味
ネルは、綿素材。
パジャマと同じ生地だと聞いて、驚く人も多いでしょう。
毛羽立った外側が、目詰まりを防ぎ、
内側の滑らかさが、澄んだ珈琲を生み出す。
使用後は乾かさず、水に浸け、冷凍保存する。
それは手間ではなく、味を守るための行為です。
道具を「消耗品」として扱わない。
その姿勢こそが、味に現れるのだと感じました。
抽出の技術よりも大切なこと
平田先生が何度も口にされていたのは、
「珈琲と向き合う」という言葉でした。
最初の三分の一がすべてを決める。
温度は88度。
差しては止め、差しては止める。
けれど、それ以上に重要なのは、
急がないこと。流されないこと。
技術は、姿勢のあとについてくる。
それは、珈琲に限らない真理のように思えました。
珈琲は、人生の見方を映す
珈琲は、単なる飲み物ではありません。
どんな道具を選び、どんな所作で向き合うか。
そこには、
物事をどう見つめ、どう大切にするかという姿勢が、
静かに映し出されます。
澄んだ珈琲は、
澄んだ時間をつくる。
ネルドリップは、
そのことを、何度でも思い出させてくれる存在でした。
この記事について
本記事は、選品舎/Helvetica を運営する大西健が執筆しています。
ヴィンテージ家具・古書の選品、販売、記録を通じて、
「残るもの/残らないもの」の判断基準を実務の中で整理しています。











