コンテンツへスキップ

カート

カートが空です

記事: ある家具年鑑が、棚で3年待っていた ― new furniture / neue möbel(Gerd Hatje編)全11巻のこと

ある家具年鑑が、棚で3年待っていた ― new furniture / neue möbel(Gerd Hatje編)全11巻のこと

ある家具年鑑が、棚で3年待っていた ― new furniture / neue möbel(Gerd Hatje編)全11巻のこと

棚の一番下に、半世紀ぶんの家具が眠っていた。

戦後、世界中のモダン家具を一年ごとに記録していった年鑑『new furniture / neue möbel / meubles nouveaux』。その全11巻完全揃いが、うちの棚で3年、静かに次の持ち主を待っていました。今日はこの一揃いの話を、少しだけ。

“新しい家具”を記録するという仕事

1950年代、モダン家具は世界中で同時多発的に生まれていました。アメリカで、北欧で、ドイツで、そして日本で。それを「いま、最も先を行く家具」という基準で毎年すくい上げ、一冊にまとめたのがこのシリーズです。

編集は、現代美術・建築・写真の出版で世界的に知られた名出版人ゲルト・ハッツェ(Gerd Hatje)。家具は種類別に整理され、図版には作り手とメーカーの名が添えられ、巻末には作家・メーカーのリストまで付く。家具を“鑑賞”ではなく“記録”するという、年鑑ならではの誠実な手つきがあります。

英・独・仏の三か国語併記(巻によってはスペイン語も)。最初から、国境を越えて読まれることを前提に作られた本でした。

誌面に並ぶ、20世紀の名前

ページをめくると、いまも現役で語られるデザイナーたちが当たり前のように並んでいます。

  • ジョージ・ネルソン
  • チャールズ・イームズ ―― 第7巻の表紙は、あのアルミナムチェアのシルエット
  • アルネ・ヤコブセン
  • ヴァーナー・パントン

そして、ここが個人的に一番うれしいところ。日本の剣持勇が、同じ誌面に載っている。戦後の世界が「これが新しい家具だ」と並べたページの中に、日本のモダンデザインが当たり前のように記録されている。当時の日本の作り手が、世界標準のただ中にいた証拠です。これは資料としても、一人の日本人としても、静かに胸が熱くなる事実でした。

なぜ「全11巻揃い」が希少なのか

このシリーズ、実は巻によって版元が違います。スイスの Arthur Niggli(Teufen)、ドイツの Verlag Gerd Hatje(Stuttgart)。背表紙を並べると、版元名が入り混じっているのが分かります。年をまたいで版元が変わりながら続いた――それだけ長く編まれたシリーズだということです。

単巻でさえ古書市場にはめったに出てきません。まして1巻から11巻まで欠けることなく揃うとなると、出会える機会はごくわずか。揃いには、一冊ずつ集めた人の時間と執念が、そのまま積み重なっています。

状態について、正直に

ヴィンテージの紙ものです。きれいごとは書きません。

全体に経年のヤケがあり、スレも見られます。巻によってはカバーの角に傷み、小さな欠損、シミがあります。何冊かは保護のためのフィルムを掛けてあります。完璧な美本ではありません。でも、半世紀をくぐり抜けて11冊が揃って残ったことの方が、私には価値に思えます。詳しい状態は商品ページの画像でご確認ください。

次の場所へ

私たちは、モノを「いくらで売れるか」だけで見ない店です。この本を、本当に必要とする一人のもとへ届けたい。半世紀を記録したこの一揃いが、次の棚で、また誰かの手で開かれますように。

静かに、次の場所へ。

商品ページで見る


書誌情報
new furniture / neue möbel / meubles nouveaux(全11巻揃い)|編:Gerd Hatje|出版:Arthur Niggli / Verlag Gerd Hatje(巻により異なる)|言語:英・独・仏(巻により西語)|推定1950〜70年代|ソフトカバー|22.8 × 18.2 × 約2cm(各巻)


この記事について

本記事は、選品舎/Helvetica を運営する大西健が執筆しています。
ヴィンテージ家具・古書の選品、販売、記録を通じて、
「残るもの/残らないもの」の判断基準を実務の中で整理しています。
この判断軸の全体像は、残るものを選ぶという行為についてに記録しています。


ブログは、ふたつの棚に分かれています。

いまの気分に近いほうから、お進みください。

静けさのなかにある商いの気配

この記録を読む

見る本”では終わらない 80年代日本インテリアを構造で読む一冊|インテリア・ブック II
モノを超えて

見る本”では終わらない 80年代日本インテリアを構造で読む一冊|インテリア・ブック II

1980年代前半、日本の住宅インテリアが大きく変質した時期の記録。本書は単なる事例集ではなく、「構成」「スタイル」「エレメント」「部屋」という分解軸で空間を読み解く編集構造を持っています。海外需要の高まりとともに国内相場も上昇傾向にあり、資料としての質と量の両面で、長く参照される一冊です。

もっと見る