古本の選び方|バイヤーが語る“においで選ぶ”という視点
春になると、草花の香りに背中を押されるようにして、外へ出たくなります
やわらかな日差し、風に混ざる匂い、土のにおい。そんな季節の空気のなかで、ふと思うのです
「本も、五感で選んでもいいのではないか」と
私が古本を選ぶとき、重要にしているのは“におい”です
それは、においがもっとも記憶に残る感覚だから
実際、脳科学の分野でも、嗅覚は記憶と強く結びついているといわれています
一方で、人が死ぬときに最後まで残るのは「聴覚」だそうです
嗅覚は比較的早く失われるにもかかわらず、香りは不思議と私たちの心を深く揺さぶります
古書を手に取った瞬間に、ふっと鼻を近づけてみる
湿った紙のにおい、少し甘いインクの香り、遠い誰かの生活の気配
新品の本にはないその匂いが、過去の風景や感情を呼び起こすことがあります
私はバイヤーとして本を仕入れるとき、タイトルや著者だけでなく、そうした“感覚”も選定基準にしています
脳で考える前に、心が動くかどうか
言葉にできないけれど確かにそこにある「気配」を感じるかどうか
美意識というのは、説明しようとするとすぐに逃げてしまいます
だから私は、まず感じることを優先します
たとえば、においで覚えている本がある
それはもう、その人にとっての“特別な一冊”なのだと思うのです
五感で選ぶ古本は、暮らしのなかで静かに寄り添ってくれます
眺めてよし、手にとってよし、ページをめくってなおよし
インテリアとしても、思考の旅の道具としても、その役割を果たしてくれる
私のオンラインショップでも、そうした「五感で選ぶような本」を少しずつ紹介しています
もし気になる一冊があれば、まずはページを覗いてみてください
春の空気を吸いながら、散歩の延長で出会うような、そんな本との時間を楽しんでいただけたら嬉しいです