





ダイアン・アーバス作品集 Diane Arbus|1973年 西武百貨店 日本語版|レインコート図版収録
1973年6月、東京・池袋。
西武百貨店で開催された「ダイアン・アーバス写真展」に際して刊行された、日本語版の作品集です。
前年の1972年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されたダイアン・アーバスの回顧展。その翌年、日本でもアーバスの写真をまとまった形で紹介する展覧会が開催されました。西武百貨店での会期は1973年6月1日から13日までと記録されています。
日本語版の編集を手掛けたのは、当時『カメラ毎日』編集長だった山岸章二。
山岸は1970年代、日本の写真家を海外へ紹介すると同時に、ダイアン・アーバスをはじめとする海外の新しい写真表現を日本へ紹介する重要な役割を担いました。
表紙を飾るのは、アーバスを象徴する一枚となった双子の少女。
正面からこちらを見る二人の姿から始まり、ページをめくるにつれて、アーバスが見つめ続けた人間の姿が静かに現れてきます。
現在では一人の写真家のモノグラフとして読むことのできる一冊ですが、1973年の日本でこの本が刊行されたという事実まで含めて見ると、別の意味が立ち上がります。
これはダイアン・アーバスの作品集であると同時に、彼女の写真が日本へ渡ってきた時代を残す一冊でもあります。
特徴
本書は、1973年6月に西武百貨店池袋店で開催された「ダイアン・アーバス写真展」に際して刊行された日本語版です。
日本語版の編集を手掛けたのは、当時『カメラ毎日』編集長を務めていた山岸章二。
本個体には、後の版では削除された「Two girls in identical raincoats(揃いのレインコートを着た二人の少女)」が収録されています。
この図版には版による違いがあり、Second Printing表記を持ちながらレインコートの少女を収録する個体と、収録しない個体の双方が確認されています。
そして、もうひとつ本書に残されているのが、一部の裸体写真の局部を黒く塗りつぶした修正跡です。
これは後年の所有者による書き込みではなく、1973年日本語版の他個体にも確認されている処理で、通関時に施されたものとされています。古書資料では6カ所の修正が確認される個体も記録されています。
現在の視点から見れば、写真作品の一部が黒く覆われた異様な姿にも見えます。
しかし、それも含めて1973年という時代に、アーバスの写真がどのような状態で日本へ入ってきたのかを示す痕跡です。
作品そのものだけでなく、海外の写真表現を当時の日本がどのように受け入れたのか。その境界まで一冊の中に残されている。
この日本語版を資料として見るうえで、見逃せない特徴のひとつです。
この本が残した視点
- 「普通」と「異質」を分けているものは何なのか
- 被写体を見る写真家と、写真を見る私たちの視線はどう違うのか
- 一枚の写真は、人間を記録するのか、それとも見る側の価値観を映し出すのか
- 海を渡った写真が、異なる時代や文化の中でどのように受け取られたのか
書誌情報
・タイトル:Diane Arbus/ダイアン・アーバス作品集
・写真:Diane Arbus(ダイアン・アーバス)
・日本語版編集:山岸章二
・発行:西武百貨店
・刊行年:1973年6月
・関連展覧会:ダイアン・アーバス写真展(西武百貨店池袋店、1973年6月1日〜13日)
・装丁:ソフトカバー
・サイズ:約280 × 235 × 13mm
・言語:日本語
・図版:「Two girls in identical raincoats」収録
状態
1973年刊行の古書として経年変化はありますが、全体として比較的良好な状態です。
表紙にはスレ、薄い汚れ、細かなキズがあります。表紙右上角に折れ・シワ、角や縁に軽い傷みが見られます。背および三方には経年によるヤケ・薄い汚れがあります。
本文には経年によるヤケ、一部にシミ・斑点が見られます。
一部の裸体写真には、局部を黒く塗りつぶした修正跡があります。 これは本個体への後年の書き込みではなく、1973年日本語版の他個体にも確認される処理です。
「Two girls in identical raincoats」の図版は収録されています。
書き込みはありません。
状態については掲載写真をあわせてご確認ください。
迎える理由
選定理由:
ダイアン・アーバスの代表的な作品群を収録するだけでなく、1973年に日本で開催された「ダイアン・アーバス写真展」とともに刊行された、日本におけるアーバス受容の初期資料であること。
比較した視点:
後年の再版や日本語版写真集ではなく、西武百貨店によって1973年に刊行された同時代の日本語版であること。さらに本個体には、版によって収録されていない「Two girls in identical raincoats」が残されています。
判断の結論:
この本の価値は、単純な「初版」という言葉だけでは捉えきれません。
1972年、ニューヨーク。
1973年、東京。
ダイアン・アーバスの写真が海を渡り、日本で初めて大きく紹介された時代。
そのとき、何が収録され、何が修正され、どのような姿で日本の読者の手に渡ったのか。
一冊の写真集に残された小さな違いから、当時の写真文化と出版の動きが見えてきます。
作品を見るための本であると同時に、作品が日本へ届いた時間まで残している本。
そこに、この1973年版を選ぶ理由があります。
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