カート
カートが空です
ひとつの文様は、どこから来たのか。
しずくのようにも、曲がった植物のようにも見えるペイズリー。
現在ではネクタイやスカーフ、ドレス、インテリアなど、世界中で見かける文様ですが、その形は最初から「ペイズリー」だったわけではありません。
本書は、1993年から1994年にかけて渋谷区立松濤美術館で開催された特別展「ペイズリー文様の展開―カシミアショールを中心に―」の展覧会図録です。
17世紀のインドやイランに見られる草花文様から、カシミール地方のショール、そしてヨーロッパへ。
一本の草花から始まった文様が曲がり、伸び、複雑化し、やがて布面を覆う大きなデザインへと変化していく過程を、実際の染織資料を通してたどります。
興味深いのは、単なる文様の歴史では終わらないこと。
アジアの手織りと、ヨーロッパで発達したジャカードによる機械織り。
同じような文様でありながら、土地が変わり、技術が変わり、作る人が変わることで、その表情も変わっていきます。
ひとつの形が、文化から文化へと渡りながら変化していく。
デザインが生まれ、伝わり、別の土地で再び解釈される過程を見ることのできる一冊です。
本書では、インド、イラン、東南アジア、中央アジア、そしてヨーロッパの染織品を通して、ペイズリー文様の成立と変遷を紹介しています。
特に、17世紀ムガール朝期の衣服やショールに見られる草花文様が、18世紀から19世紀にかけて複雑化・大型化していく過程は、本書の大きな見どころです。
また、イランのサファヴィー朝・カジャール朝の染織、初期ペイズリー文を持つインド染織、19世紀後期のショールなども紹介。
さらにヨーロッパに渡った文様が、ジャカード織機などの機械技術と結びつき、別のデザインへ発展していく過程まで扱っています。
山辺コレクション、平山コレクションに加え、19世紀ヨーロッパのデザイン画では亀井コレクションの資料も紹介されています。
ペイズリーを単なる装飾文様として見るのではなく、その背後にある文化交流、技術、産業まで読み取ることのできる資料です。
ペイズリーという名前を知っていても、その形がどこから来たのかを考える機会はあまりありません。
インドから西アジアへ。そしてヨーロッパへ。
人と物が移動するたびに文様も移動し、それぞれの土地の美意識や技術によって少しずつ姿を変えていきました。
デザインは、ひとりの作者だけによって生まれるとは限らない。
長い時間と文化の往来そのものが、ひとつの形をつくることがあります。
・タイトル:ペイズリー文様の展開―カシミアショールを中心に―・編集:東京都渋谷区立松濤美術館・発行:渋谷区立松濤美術館・刊行年:1993年・ページ数:188頁・サイズ:約30cm・展覧会:特別展「ペイズリー文様の展開―カシミアショールを中心に―」・会期:1993年12月1日〜1994年1月30日・会場:渋谷区立松濤美術館
経年によるスレ、ヤケ、薄い汚れなどがあります。
本文にも経年変化がありますが、図版・文章を鑑賞するうえで大きく支障となるような傷みはありません。
1993年刊行の展覧会図録であることをご理解のうえ、掲載写真とあわせて状態をご確認ください。
選定理由:現在でも広く使われているペイズリーというひとつの文様を、その起源からヨーロッパへの伝播まで、実物の染織資料を通して追うことのできる本であること。
比較した視点:単なるパターン集ではなく、インド、イラン、中央・東南アジア、ヨーロッパという地域の移動と、手織りから機械織りへの技術的変化まで含めて文様を捉えている点を重視しました。
判断の結論:現在では、ペイズリーはひとつの完成された模様に見えます。
けれど、その形を遡っていくと、そこには一本の草花があり、異なる文化との出会いがあり、新しい織物技術がありました。
形だけを見るのではなく、その形がどこから来たのかを見る。
デザインの背景にある長い時間まで、本棚に残しておきたい一冊です。
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