油彩画と銅版画によって、静かで幻想的な世界を描き続けた画家・落田洋子の愛蔵版作品集『風の祝祭』。
舟橋克彦による詩と、落田洋子自身の文章を交えながら、人物、樹木、建築、果実、動物などが共存する作品世界を収録しています。
本書の中心的な価値は、作者自筆の鉛筆サインが入った色彩リトグラフィー2点が付属することです。
・「沈黙の日曜日」
・「アスピディストラの回想」
いずれも1981年制作。厚手のマットに収められており、そのまま保管するだけでなく、額装して一枚の作品として楽しめます。
限定番号はVII番。刊行時の二重函に加え、通常は失われやすい美術出版社の包装紙も残されています。
特徴
落田洋子の作品は、静物、人物、風景という区分には収まりません。
石造の壁、黒衣の人物、樹木、猫、果実、瓶、塔、列車。それぞれのモチーフは現実の形を保ちながら、ひとつの寓話を構成するように配置されています。
色彩は穏やかでありながら、画面には微かな緊張があります。物語を明確に説明しないため、見るたびに異なる関係や意味が立ち上がります。
本書では作品図版に加え、詩や作家自身の文章を併載。絵だけを見る作品集とは異なり、落田洋子が作品の背景に置いた時間や記憶まで辿ることができます。
付属リトグラフィーには、それぞれ鉛筆によるサインと版数表記があります。印刷図版ではなく、独立した作品として扱えることが、この愛蔵版の決定的な魅力です。
この本が残した視点
落田洋子の絵は、強い刺激によって人を引きつけるものではありません。
描かれているものは静かで、どこか懐かしい。しかし、現実には存在しない距離や比率によって構成され、画面の奥には説明されない出来事が残されています。
物語を理解して終わるのではなく、見る側が繰り返し戻るための余白がある。そこに、この作品が長く飽きずに見られる理由があります。
付属する2点のリトグラフィーは、本の挿絵ではありません。書物から取り出し、額装し、生活の中で向き合うことのできる作品です。
書誌情報
・タイトル:風の祝祭
・著者・作品:落田洋子
・詩:舟橋克彦
・出版社:美術出版社
・刊行年:1982年(昭和57年)
・版:愛蔵版・限定出版
・限定番号:VII番
・装丁:ハードカバー/二重函
・サイズ:約54 × 43cm
・厚さ:約5cm
・付録:自筆鉛筆サイン入り色彩リトグラフィー2点、専用マット
・収録作品:「沈黙の日曜日」「アスピディストラの回想」
・付属品:赤色外函、黒色内函、刊行時包装紙
状態
赤色外函を包む包装紙に、破れ、欠損、染み、擦れ、折れがあります。包装紙自体は傷みが強い状態ですが、刊行時の付属物として残しています。
黒色内函には多少の擦れがあります。
作品集の見開きおよび見返し付近のノドに、湿気による波打ちと染みが見られます。小口に少量の染みがあり、全体にやや古書特有の匂いがあります。
付属の色彩リトグラフィー2点には、落田洋子の鉛筆サインと版数表記があります。詳細は掲載画像をご確認ください。
刊行から年数を経た大型美術書です。状態を含め、本書の来歴としてご理解のうえお求めください。
迎える理由
選定理由:
落田洋子の作品集であることに加え、自筆サイン入り色彩リトグラフィー2点を備えた限定愛蔵版であるため。
比較した視点:
通常版の作品集や展覧会図録とは異なり、書籍とオリジナル作品が一体となっています。さらに、二重函と刊行時の包装紙まで残っており、出版物としての構成を比較的よく留めています。
判断の結論:
本として保管するだけではなく、2点のリトグラフィーを額装し、落田洋子の世界を日常の空間で楽しむために迎える価値があります。
包装紙には大きな傷みがあります。しかし、本来失われやすい外装まで残っていることは、この一冊が辿ってきた時間を示す要素でもあります。
作品は、見るたびに意味が変わります。
説明し尽くされないからこそ、長く残る一冊です。